LOG IN

これさえ読めばわかる!毎月勤労統計の不正問題

by 斉藤のどか (Nodoka Saito)

いま世間を騒がせている厚生労働省の毎月勤労統計不正問題。なんとなく不正があったことは知ってるけど詳しくはよくわからない、という方向けにわかりやすくまとめてみました。

毎月勤労統計ってなんだろう?

どんな不正だったんだろう?

どうしてこれほど騒がれてるんだろう?

そんな疑問も解消できるとおもいます!それでは早速はじめましょう。

そもそも、「毎月勤労統計」って?

毎月勤労統計とは、その名の通り「毎月集計される勤労に関する統計」のことです。具体的に何を調べているのかというと、

・労働者の男女別人数

・勤務時間

・残業時間

・出勤日数

・給与

・ボーナス

など、働き方に関するさまさまな数字が調べられています。

この統計が何に使われているのかというと、

・日本経済全体の状況把握

・雇用保険や労災保険の給付金額の決定

・会社の給与の改定

などです。この統計をもとにわたしたちの生活に直結するような大事なことが決められているんです。さらに、毎月勤労統計をもとに算出されるGDP(国内総生産)といった経済状況を表す数字は海外にも公表されていて、国際的にも重要なデータとして使われています。

ちなみに、毎月勤労統計は「基幹統計」に指定されています。基幹統計というのは、全国的な政策を決めたり、民間がさまざまな意思決定や研究をしたりするうえで特に重要な統計として総務大臣が指定したものです。この毎月勤労統計を含めて全部で56種類あります。これらの基幹統計はその調べ方や調べるときに必要な手続きなどが法律によって決められています。もし基幹統計の調査方法を変更したいときは、総務大臣の承認をとらなければいけません。これだけ細かく法律で決められているということからも、毎月勤労統計の重要さがわかります。

一体、どんな不正があったの?

この大事な統計の収集方法に不正があった、というのが今回の問題です。統計をとっているのは厚生労働省なのですが、その調査の仕方がなんと2004年から間違っていたのです。

一体どんな間違いがあったのかみるまえに、まずは正しい調査方法をみてみましょう。

毎月勤労統計をとるにあたって、調べなければいけない企業は大きく2種類あります。

・第一種事業所:従業員が30人以上の事業所。

・第二種事業所:従業員が5〜29人の事業所。

といっても、日本全国にあるすべての会社を調査するのは大変なので、調査対象をランダムに選ぶ「抽出方法」というかたちをとって調査してきました。でも従業員が500人以上いる大企業については、すべて調査する「全数調査」という方法をとるというルールを設けていました。

それではいよいよ、今回の不正問題を詳しく見てみましょう。

① 東京の500人以上いる大企業の調査方法を勝手に変えた

従業員500人以上の大企業はすべて調査するはずが、東京にあるものは全体の約1/3しか調べていなかったことが判明しました。すべて調べる全数調査ではなく、調査対象をいくつかランダムに選んで調べる抽出調査に切り替えていたのです。先ほども書きましたが、毎月勤労統計は基幹統計に定められています。調査方法を変えるときは統計法に基づいて、総務大臣の承認を得なければいけません。それをしないで、勝手に調査方法を変えてしまっていたのです。

②勝手に抽出調査に変えたあと、必要な計算手順を踏まなかった

東京にある500人以上の企業を抽出調査に切り替えること自体は、統計法に定められた手順をしっかり踏んで総務大臣の許可を得ていればとくに問題にならないことです。ただ、今回の不正問題では抽出調査に切り替えたあとにデータの「補正処理」をしなかったことも非常に重要です。

ここで補正処理とは一体どういうものなのか、見ていきましょう。わかりやすくするために、ものすごく単純な例を挙げています。あくまでも極論なので、ご了承ください。

例えば、A町に住んでいる小学1年生の子どものうち、何人がスマートフォンを持っているか調べたかったとします。A町に住んでいる小学生1年生は全部で100人です。

A)100人全員を調べる全数調査の場合:

スマートフォンをもっているかいないか、1人ずつに聞いていって、その結果がそのまま答えになります。

全員に聞いたら、30人がスマートフォンを持っていると答えました。

B)100人のうちから何人かランダムで選ぶ抽出調査の場合:

100人全員に確認をとるのは時間がかかるので、ランダムに10人選んで調査をするとします。その10人中3人がスマートフォンを持っていたとしましょう。この場合、このまま「100人中3人がスマートフォンを持っている」というのは間違いですよね。10人にしか聞いていないわけなので、それを100人に聞いた場合どうなるのか、という計算をしなければいけません。これが補正処理です。10人中3人がスマートフォンを持っていたなら、100人中だいたい30人持っているだろうと計算してそれを結果として発表するのです。

厚生労働省は、東京の500人以上いる大企業調査を勝手に抽出調査に切り替えておきながら、この補正処理をしていなかったことが発覚しました。全体の1/3しか調べていないのに、その結果をそのまま使ってしまったのです。小学1年生のスマートフォンの例でいうと、 10人中3人がスマートフォンを持っていたという結果を「100人中3人が持ってた」と発表してしまったことになります。統計の正確性そのものが失われてしまった大きなミスです。東京にある大企業といえば、大きな利益が出ているぶん、従業員に支払っている給料も全国的にみて高いといえます。この東京の大企業の数値が正確に反映されていないことで、給料などが実際よりも低い数字になってしまったのです。

③ 2018年1月以降のデータだけ補正処理をしはじめた

そこからさらに不正は悪化します。厚生労働省は東京の大企業を違法に抽出調査に切り替えてるうえ必要な補正処理をしていなかった、という事実に気がつきます。これではまずいということで、密かに2018年1月から補正処理をし始めたのです。

例えば先ほどの小学1年生のスマートフォンの例でいうと、最初の数年は補正処理を忘れていたため、「100人中3人」という結果を発表してしまった。でもある年からいきなり補正処理をし始めて「100人中30人」という発表をするようになった。はたから見たら、「小学1年生のあいだで急にスマートフォンが普及し始めた」と思ってしまいますよね。

毎月勤労統計でも、2004年から2017年まで補正処理をしていなかったため、実際よりも低い数字が出ていました。そのあと2018年のデータだけ補正処理をし始めたため、2018年の数字がそれ以前のものに比べてぐんと高くなったのです。「2018年はすごい成長したね」という誤解を生んでしまったのです。

以上、この問題の概要です。不正問題には「大きく3つの段階がある」という説明をしてきましたが、細かくいうともっとたくさんの問題があります。例えば、抽出調査ではランダムに調べる対象を選ぶことが必要ですが、成績のいい会社を意図的に選んでいたという疑惑も出ていますし、過去のデータを破棄してしまったという問題もあります。本当に闇の深い問題だということが日を追うごとに明らかになっています。

不正の結果、どんな影響が出たのか?

では、毎月勤労統計の結果が間違っていたことで、どのような影響が出てしまったのでしょうか。

失業保険や労災保険などの支給額が本来よりも少なくなってしまった

仕事を失ったり、労災にあったときにもらえる保険の金額も、毎月勤労統計が出す平均給与をもとに決められます。統計が間違っていたということは支払うべき金額も間違って計算されてたということです。平均給与が実際よりも低く出てしまったせいで、支払うべき保険の金額も実際より少なくなってしまったのです。

ここは少し、混乱しやすいところです。「平均給与が低くければ、もらえる保険も多くなるのでは?」と思いますよね。確かに、失業保険や労災保険は、経済的に状況が困難な人(=給料が低かった人)のほうをより手厚くケアする仕組みになっています。

でも、もらえる保険手当には上限額と下限額があります。この金額は、実際に働いている人の賃金相場に合わせて保険手当をあげよう、ということで毎月勤労統計の平均給与をもとに決められます。今回、毎月勤労統計の平均給与が実際よりも低かったことで、もらえる保険手当の上限額と下限額も低くなってしまっていたのです。

具体的に、影響を受けたのは2015万人、支払うべきだったのに支払われてなかった金額567億円にものぼります。失業保険と労災保険は、会社に勤めるすべての人が加盟していて、給料から天引きで保険料が支払われています。そして仕事を辞めたり失ったりした時や労災の被害に遭ってしまったときに、お金をもらうことができる仕組みです。自分が毎月保険料を払っていたのに、いざという時実際よりも少ない金額しかもらえなかったとなったらそれはものすごくショックですよね。困った人を助けるためにある制度が正確に機能していなかった、ということはとても深刻な問題です。

政策が正確に判断できなくなってしまった

毎月勤労統計は政策を議論するときの土台として使われています。2004年からずっと、不正確な土台の上で政策の議論や判断がされてきたと考えると…政治に詳しくなくても、どれほど恐ろしいことかは想像がつきますよね。過去15年間、一体どれくらいの政策に影響が出てしまったのかははかりしれませんが、今とくに問題視されているのはアベノミクスに対する評価です。

2018年8月、「賃金が21年ぶりの高水準で上昇」という報道が一斉にされ、「アベノミクスの効果だ!」という評価がさまざまな場所で強調されました。その根拠として「名目賃金は3.3%上昇、実質賃金は2.8%上昇(*1)」という数字が挙げられたのですが、これも毎月勤労統計から出たものでした。統計問題が明らかになり、再計算してみるとやはりこの数字も実際はもっと低かったことがわかってきました(*2)。このように、毎月勤労統計が不正確だったことで、政策の評価も正確にできなくなってしまったのです。

*1:名目賃金は、実際にもらっている収入です。実質賃金は、実際にもらっている収入だけでなく物価も考慮して計算される数字で、国民のものを買う経済的余裕がどう変化しているか図ることができます。

*2:再計算の仕方もいろいろな方法があり、どの方法をとるかによって結果は違ってきます。でも、不正調査されていた結果は実際より高かったということはどの計算方法をとっても明らかです。

なぜ不正は起きたのか

この不正がなぜ起きてしまったのか原因は究明中ですが、可能性のあるものがいくつか挙げられています。

人手不足?

毎月企業の調査をするのは、とても労力のかかることだというのは想像できますよね。2004年から東京にある従業員500人以上いる会社の調査方法が全数調査から抽出調査に切り替えられた背景には、人手不足があった可能性が指摘されています。

実際、総務省統計局が2017年に行った調査をみてみると、日本は諸外国に比べて統計職員の数が圧倒的に少ないことがわかります。日本では人口10万人に対して、統計職員の数は2.1人です。カナダでは13.9人、イギリスでは10.5人。アメリカやフランスでも、4人はいます。日本では人手が少ないことがわかりますよね。

しかも日本では統計職員の数が年々減っているという現状があります。総務省ホームページ・統計委員会配布資料で公表されているデータによると、2004年から2018年にかけて国の統計職員と都道府県の統計専任職員が合わせて6割も減ってきたことがわかります。

もちろん、人手が足りなかったから不正をしたのはしょうがない、ということにはなりません。でもマンパワー不足が深刻な問題であるなら、それを解決しない限り正確にデータをとるのは難しいでしょう。

隠蔽

毎月勤労統計の数字の見え方をわざと変えようと悪意をもって2004年から調査方法を密かに変えていたのかどうかはわかりません。でも、この間違いが発覚したあともずっと隠し続けていたことは間違いありません。2018年1月にデータの補正を始めたときも公表しませんでしたし、不正に集められた統計だと知りながらそのまま公表したりしていました。

なぜ、間違いが発覚してときにすぐに公表しなかったのか。なぜ、事実を隠し続けてしまったのか。このあたりもしっかりと究明しないと再発防止はできません。

政府からの圧力

いま、大きな注目を集めているのが、「政府からの圧力があったのではないか」という問題です。毎月勤労統計の不正は2004年からはじまっているということなので、今の安倍政権がすべて推し進めたという可能性はありません。でも、2018年の統計だけ補正され、結果的にそれ以前の統計よりも内容がよく見えてしまったということに関しては、安倍政権が関与していたのではという疑いの声があがっています。

これまでも安倍政権のもとでデータの不正確さが何度も問題になってきました。裁量労働制の議論中に持ち出されたデータ、入国管理法の改定が議論されている時に持ち出された外国人技能研修生の失踪理由に関するデータ、障害者雇用に関するデータ、どれも不正確だったことが明らかになりました。意図的に操作して捏造したものではない、と政府は主張していますが、ここまで立て続けに不正が発覚するともうさすがに信用できない…と多くの国民も思っていることでしょう。たとえ悪意がなかったとしても、大事な統計がここまでずさんに扱われていたことは重大な事件です。安倍首相も「長年にわたって不正な調査を見抜けなかったことに責任を痛感している」と発言しています。本気で原因究明に勤めてほしいところです。

一体どうすればいいの?

国が発表していた数字が不正確だった、しかもそれが14年間もずっと続いてたーーこれはものすごく大きな問題です。もう厚生労働省の数字なんて信用できない、そう思う方も多いでしょう。でも実際、毎月勤労統計のような大掛かりな調査は国にしかできないという現実もあります。ということは、厚生労働省をまた信頼できるような組織にすることが大事になってきます。ではそのために一体どうすればいいのでしょうか?

私たち国民にできることとして、まず大事なのはこの問題についてしっかりと知ることだと思います。どういう問題が起きたのか、それによってどんな影響が出てしまったのか、しっかりと知ることでこの問題の深刻さをつかむことができます。そしてその上で、原因の究明を徹底的に求めていくことが必要不可欠です。いまも予算委員会などで毎月勤労統計に関する議論がされていますが、ひとりひとりの政治家に真剣に向き合ってもらうよう世論でおしていくことが大事です。支持する政党や政治的な立場にかかわらず、協力してこそ信頼できる厚生労働省の再建ができるのです。

参考資料

厚生労働省/毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):調査の概要 

厚生労働省/毎月勤労統計ってなに?

厚生労働省/産業、事業所規模別抽出率表

厚生労働省/毎月勤労統計調査において全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたことについて

厚生労働省/毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書

厚生労働省/毎月勤労統計の再集計等の公表による 雇用保険制度への影響について

厚生労働省/統計への信頼回復に全力をつくします 雇用保険や労災保険等の追加給付に向けた準備を急ぎます

厚生労働省/雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ

総務省/統計法(平成19年法律第53号)

総務省/雇用保険法(昭和49年法律第106号)

総務省/期間統計一覧

独立行政法人 労働政策研究・研修機構/毎月勤労統計調査

東京新聞/勤労統計、際立つ悪質性 不正を職員把握、意図的加工(2019年1月13日)

東京新聞/実質賃金 大幅マイナス 専門家算出 厚労省認める(2019年1月31日)

朝日新聞/勤労統計、昨年1月から急変 算出法変更で賃金高い伸び(2019年1月11日)

朝日新聞/過少給付延べ2015万人に 統計不正、厚労次官処分へ(2019年1月18日)

朝日新聞/石破氏「なめてはいかん、統計軽んずる国家必ず滅びる」(2019年2月2日)

日本経済新聞/賃金の下振れ回避か 厚労省、毎月勤労統計の手法変更(2019年2月16日)

日本経済新聞/名目賃金6月3.6%増、伸び率は21年ぶり高水準(2018年8月7日)

日本経済新聞/名目賃金の伸び下方修正、18年 勤労統計不適切調査(2019年1月23日)

しんぶん赤旗/論戦ハイライト 塩川氏の質問 統計不正 背景に職員減(2019年2月6日)

産経新聞/人口10万人あたり統計職員 英国の5分の1 業務も分散し非効率(2019年2月9日)

ロイター/実質賃金、21年5カ月ぶりの伸びに=6月の毎月勤労統計(2018年8月7日)

毎日新聞/首相、統計不正「責任を痛感」 統一地方選や参院選へ結束呼びかけ(2019年2月9日)

ハローワーク/基本手当について

OTHER SNAPS